真空管[スペシャル･レッド･チューブ]物語
　　　　　　　　　 　　　　　　　　　 　　　　　　　　　　　（第1版；令和3年9月21日）

 
 左より RCA ”Special Red"真空管　5690、5691、5692および5693
　
真空管は、この世に誕生してから常に、本体の真空の保持、消耗品の熱電子放出体、真空管を動作させるための端子やリード線の本体への装着など原材料および製造技術上の原因により真空管が短寿命であること が問題となり、常にこの問題解決に終止したと言っても過言ではないでしょうか。社会インフラである通信システムに使用されていた真空管も1年、365日、毎日24時間動作で使用されるのが前提条 件です。真空管の寿命の期待値が10,000時間以上というのは、このような理由からでしょうか。RCAが1948年に、この短寿命問題を解決した”Special Red Tube”として、5691、5692および,5693 を”最高の信頼性と均一な品質が最優先されるアプリケーション向け”として発表しました。　
 
 1948年のRCA　”Special Red Tubes”
5692、5692および5693 カタログ表紙

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　
　この時点の「Special Red Tubes」には､5691 高μ双3極真空管、5692 中μ双3極真空管および5693シャープ･カットオフ5極真空管が含まれています。これらの真空管は､産業用アプリケーション向けで､10,000時間の寿命､堅固な構造､特性の均一性および安定性が最優先されていました。5691､5692､および5693の電気的特性は､それぞれ6SL7-GT､6SN7-GTおよび6SJ7の電気的特性と非常に良く類似していました。

（１）RCA 5691 高μ双3極真空管

 
 RCA 5691 高μ双3極真空管


　RCA 5691は、電気産業用に開発設計および製造された高μ双3極真空管です。RCA 5691には2つの3極真空管ユニット用のヒーターが直列接続されているため、ブリッジ回路の何れかのヒーターに障害が発生ると両方の?極真空管ユニットが動作しなくなります。RCA 5691は、ヒーターが2倍（0.6 A）であることを除けば、6SL7ｰGTと同じです。6SL7-GTの代替品として推奨されるのは、ヒーター電流の増加に対応できる場合、動作条件がRCA 5691の定格内いで、長寿命、堅固な構造、極端な均一性、および並外れた安定性が要求される場合にのみ優位性が認められます。

（２）RCA 5692 中μ双3極真空管

 
 RCA 5692 中μ双3極真空管

　RCA 5692は、電気産業用に開発設計および製造された高μ双3極真空管です｡平衡DC増幅器、マルチバイブレーター、ブロッキング発振器および抵抗結合増幅器として使用されます。RCA 5692には2つの3極真空管ユニット用のヒーターが直列接続されているため、ブリッジ回路の何れかのヒーターに障害が発生ると両方の3極真空管ユニットが動作しなくなります。RCA 5692は、ヒーターが2倍（0.6 A）であることを除けば、6SL7ｰGTと同じです。6SL7-GTの代替品として推奨されるのは、ヒーター電流の増加に対応できる場合、動作条件がRCA 5692の定格内で、長寿命、堅固な構造、極端な均一性、および並外れた安定性が要求される場合にのみ優位性が認められます。

（3）RCA　5693 シャープカットオフ5極真空管

 
 RCA　5693 シャープカットオフ5極真空管



　RCA 5693は、電気産業用に開発設計および製造されたRF増幅用のシャープカットオフ5極真空管です。RCA 5693は、動作条件に応じて40MΩの高抵抗値を持つグリッド No.1抵抗囲器を使用して、高利得の抵抗結合増幅器として使用されます。RCA 5693は、6SJ7の電気的特性と同等です。RCA 5693は、6SJ7の代替品として推奨されるのは、ヒーター電流の増加に対応できる場合、動作条件がRCA 5693の定格内で、長寿命、堅固な構造、極端な均一性、および並外れた安定性が要求される場合にのみ優位性が認められます。
　

　　RCA Special Red Tubesのシリーズには、RCA-5690　全波整流双2極管が、電気産業用および航空機用などの精密装置に使用するために1950年に追加されました。

 RCA”Receiving-Type Tubes for INDUSTRY
and COMMUNICATIONS”の表紙


 
 RCA”Receiving-Type Tubes for INDUSTRY and COMMUNICATIONS”の8，9頁に掲載のRCA-5690を含む”Special Red” Tubeｓの一覧表

(4）RCA 5690 全波整流双2極管

　 数年遅れて”Special Red" 真空管シリーズに追加されたRCA 5690 全波整流双2極管は、プロトタイプのない真空管ですが、RCAの宣伝資料では、次のようにこの真空管が紹介されています。
　即ち RCA 5690 全波整流双2極管は、特に産業用および航空機用に設計された「long life（長寿命）」整流管で、真空管は、最大1,120 V (PIV）、プレートあたり最大375 mAのピーク･プレート電流、 およびプレートあたり最大75 mAの平均プレート電流が流せます。 RCA 5690 全波整流双2極管は、最大定格電圧で動作し、25 Hz/secの周波数で数百時間にわたって2.5 Gの連続振動に耐え、短時間で500 Gの衝撃加速度に耐えます。 この真空管では、各整流器ユニットに独自のヒーターとカソードがあり、それぞれに個別にベース端子に接続されています。ヒーターは、6.3 Vの電源からは並列接続に、または12.6ボルトの電源から直列接続にして使用できます。 独自の真空管ベース設計により、ベース･ピン間の漏洩に対する非常に高い耐性が施され、高高度でのアークオーバーが最小限に抑えられます。RCA 5690 全波整流双2極管は最大定格40,000 フィートの高度で動作できます。 10,000時間の寿命と最高の信頼性が最優先される整流器を使用の場合は、RCA 5690 全波整流双2極管を指定し、安全を確保することです。

 
RCA　5690　全波整流双2極管 


(5）RCA 5690 Special Red Tubes,全波整流双2極管の広告

RCAは、5690 Special Red Tubes,全波整流双2極管を可成り積極的に宣伝をしています。

 
RCA 5690 Special Red Tubes,全波整流双2極管の広告 


10,00 0>時間-最小保証寿命！産業、航空機、および軍事機器の信頼できるサービスのために

RCA-5690全波整流双2極管 は、特に産業用および航空機用に設計された「long life（長寿命)」整流管です。真空管は、最大1,120 Vまでのピーク逆プレート電圧(PIV）、プレートあたり最大375 mAのピーク･プレート電流、およびプレートあたり 最大75 mA の平均プレート電流が流せます。 RCA-5690は、最大定格電圧で動作し、25 Hz/secの周波数で数百時間にわたって2.5 G
の連続振動に耐え、短時間で500 Gの衝撃加速度に耐えます。RCA-5690は、各整流器ユニットに独自のヒーターとカソードがあり、 それぞれに個別のベース端子があります。ヒーターは、6.3 Vの電源から並列に、または12.6 Vの電源から直列接続して使用できます。独自の真空管ベース設計により、ベース･ピン間の電流の漏れに対する非常に高い絶縁性が施され、高高度でのアークオーバーが 最小限に抑えられます。 RCA-5690は最大定格40,000 フィートの高度で動作できます。 10,000時間の寿命と最高の信頼性が最優先される整流器アプリケーションの場合は、RCA 5690を指定し、安全を確保してください。

その外のRCA "Special Red”Tubes（最小保証寿命10,000時間）

 
左よりRCAｰ5691（高μ双3極管）､RCAｰ5693（シャープカットオフ5極管）
､RCAｰ5692（中μ双3極管）

　　　　　　

(６）RCA ”Special Red”､ 10,000時間の寿命保証のある真空管の機械的構造

品質に特徴を持たせるときはいつでも、品質だけで、RCA「Specia lRed」真空管を推奨します。：即ちRCA-5691またはRCA-5693の機械的構造です。それらは巧みに設計され、頑丈に設計され、正確に製造され、厳密に処理され、厳密にテストされており、 短時間で500 Gの衝撃衝撃に耐え、数百時間で"2.5 Gの連続振動に耐えています。


1.低漏洩ステム
2.非吸湿性ベース
3.機械強度の強い純タングステン･ヒーター
4.ヒーター･スリーブはヒーター･リード間の機械的と電気溶接を保証
5.カソード･スリーブはマイカ絶縁材により固定
6.接触電位の変動を最小限に抑えるためのグリッド･メッキ
7.グリッド･ロッドの垂直方向の動きを防ぐ「ストップ
8.マイカ絶縁体に適合するグリッド･ロッド
9.ゲッタ遮蔽の追加のマイカ絶縁体
10.長寿命化のための2つのゲッタ
11.マイカ絶縁体に楔で留められた板状片で固定されたプレート
12.プレートは、ユニット間の電子結合を最小化した設計
13. 5本の支持棒で固定されたマウント
14.12個の補強アイレットは､マイカ絶縁体と5本の支持ロッドの間を強固に結合
RCA-5691およびRCA-5692の構造



参考文献
１．RCA、「RCA　Special Red Tubes､5692､5692､5693」､SRB-1002､Copyright､1948､Radio Corporation ｏｆ America　
２. Gordon G. Johnson,「Guide 11：RCA "SPECIAL RED"TUBES･･･ of Twelve Guides to Reliable Electronic Design」､pp24～26
３. Gordon G. Johnson,「Guide 12：G.E. ARINC TUBES・・・ of Twelve Guides to Reliable Electronic Design」､pp26～29
４．RCA、「5690 Special Red Tube､HIGH-MU TWIN TRIODE」､TENTATIVE DATA､MAR. 15, 1948
５．RCA、「5691 Special Red Tube､HIGH-MU TWIN TRIODE」､TENTATIVE DATA､MAR. 15, 1948
６．RCA、「5692 Special Red Tube､MEDIUM-MU TWIN TRIODE」､TENTATIVE DATA､MAR. 15, 1948
７．RCA、「5693 Special Red Tube､SHARP-CUTOFF PENTODE」､TENTATIVE DATA､MAR. 15, 1948
８．RCA、「Receiving-Type Tubes for INDUSTRY and COMMUNICATIONS」､FORM No. RIT-104B
９．L.W.Aurick, K3QAX/W2QEX ,「Special Tube Types And the Amateur Radio Operator」､1966 Spring ､RCA-Ham-Tips.pdf
１０．電子管試験法専門委員会、「高信頼管試験法調査報告（第1報）要旨」､電気学会雑誌 79巻 851号,Aug 1959､pp43～47
１１．電子管試験法専門委員会、「電子管試験方法調査報告（第2法）(要旨）」､電気学会雑誌 81巻 870号、March 1961､pp450～451
１２．高橋忠夫、「高信頼管の特色とその使用法」、日立評論 第42巻 第2號､昭和35年2月,pp227～280
１３．会田尚美､「高信頼度小型電子管」､NEC日本電気技報 No51,1962-1,pp81～96
１４．原島治、「工業用真空管（信頼度の高い真空管)」､電気通信学会雑誌､第34巻 第12號､pp682～686
１５．池澤茂、「無線用通信管 (レッドチューブ)」、 NEC日本電気技報 No9 1950-05,pp27～30　
１６．中村新太郎、「通信用真空管の寿命とその試験法」､エレクトロニシャン､1952-10､pp14～18
１７．会田尚美、「真空管の信頼度」､エレクトロニクスダイジェスト No22別冊､pp61～71
１８．湯沢清、「高信頼管」、東芝レビュー 10巻 1号､昭和30年1月、pp43～47
１９．西尾秀彦、「電子管の工業応用」､電界学会雑誌 75巻 803号､Aug 1955､pp936～940.
２０．汐見弘、「信頼性の技術史」､REAJ誌 Vol12 No2（通巻45号)､pp1-3
２１．内山晴彦､「Ⅱ. 超高信頼度システムのためのテクノロジー」､電気学会雑誌 96巻 6号､昭和51年6月､pp511～519　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　以上